大 型コ レクション:
_軟 体動物学に関する基本文献コレクション

本 コレクションは 19世 紀にヨーロッパで刊行された軟体動 物の系統分類学に関わる基礎的文献9点からなるコレクションである。19世紀のヨー ロッパは科学的探検航海の隆盛期で、世界中からもたらされる博物標本に基づいて、 科学としてそのスタイルのととのった自然史研究が活発におこなわれるようになった 時代でもあり、また、版画技術などの発達もあり、多くの素晴らしい博物図譜が刊行 された時代でもある。その時代にあって,ここに含まれるモノグラフ類は貝類の分類 に関してその時点でのエポックメイキング的な総説などを含んでおり、その科学的価 値は極めて高いものである。

1. The genera of recent mollusca: arranged according to their organization.
[by] Henry ADAMS and Arthur ADAMS, [1853]-1858. John Van Voorst , London, 3 vols.


本書は、主として学生を対象に、軟体動物の貝殻の形態に基づいた分類を教授す るために出版された教科書である。現在の貝類の分類体系の基礎となる属の分類に関 してその時点での大規模なレビュー、整理をおこない、また、多くの新タクサを提唱 したモノグラフとして、現在でも重要な文献のひとつとなっている。
 著者の一人、
Henry Adams (1813-1877) は 建築家で、彼の弟 Arthur Adams (1820-1878) は、 海軍の外科軍医であった。ともに貝類を研究し、 本書を刊行して、多くの属を含む新しい分類体系を示し、貝類分類学に新風を吹き込 んだ。又、A. L. Reeve 等 と共 に Hugh C uming の 莫大な蒐集貝 類の中の多くの新種を記載し、モノグラフを発表した。A. Adams は、 前後2回東洋に航海して、船医として働き、傍 ら水路調査の際に貝類を採集し研究した。日本沿岸では山口県見島沖や館山湾などで もドレッチによる貝類採集をおこない、多くの新種を Proceedings of the Zoological Societ y of London な どに 記載している。 本書の3巻 (Atlas) には A. Adams によって サマラング号探険航海中に描かれた生きた軟体動物の姿が図版に多く収められている 。

2. Species conchyliorum, or concise original descriptions and observations acco mpanied by figures of all the species of recent shells, with their varieties . Vol. I, Part I.
[ed. by] G. B. SOWERBY, 1830. Sowerby, London, 7, 10, 10, 3 p. + [14] pl s.
containing:
a) A monograph of the genus Cymba, [by] W. J. Broderip
b) Monographs of the genera Ancillaria, Ovulum and Pand ora, [by] G. B. Sowerby.

美しい図版を伴った、分類群単位での貝類モノグラフ類の先駆けともいえる本書 は、わずかに4篇のパートを出版したところで未完におわってしまった。
 著者の一人
William John BRODERIP (1789-1859) は、 イギリスの法律家で博物学者でもある。また、Zoological Society of London (ロ ンドン 動物学会)の創設者の一人でもあり、多くの軟体動物関係の論文を同学会の学会誌に 発表している。彼の所有した貝類コレクションは、当時イギリスでも有数のものであ り、本書をはじめ、多くの論文、出版物の材料として研究者に利用され、後に大英博 物館によって購入・所蔵された。大英博物館の貝類コレクションの根幹をなすものの ひとつである。

3. Bibliotheque conchyliologique.
[ed. by] J.C. CHENU, 1845-46. A. Franck, Paris, 5 vols.

Premiere Serie.

Tome I.
Histoire naturelle des coquilles d'angleterre. [by] E. DONOVAN; [transl ated from English by] J. C. Chenu, 1845.
127 p. + 48 pls.

Tome II.
Le conchyliologiste universel ou figures des coquilles. [by] Thomas MARTYN; [translated from English by] J. C. Chenu, 1845.
32 p. + 56 pls.

Tome III.
a) Conchyliologie Americaine ou descriptions et figures des coquilles d e nord de l'Amerique. [by] Th. SAY; [translated from English by] J.C. Chenu, 1845. 64 p. + 17 pls.
b) Partie conchyliologique des Melannges zoologiques. [by] William Elford LEACH; [translated from English by] J. C. Chenu, 1845. 25 p. + 9 pls.
c) Nouvelle coquilles d'eau douce des etats-unis. [by] T. A. CONRAD; [translated from English by] J. C. Chenu, 1845. 33 p. + 4 pls.
d) Monographie des coquilles bivalves fluviatiles de la riviere Ohio. [by] M. C. S. Rafinesque; [translated from English by] J.C. Chenu, 1845. 30 p. + [4] pls.

Tome IV.
Testacea britannica ou histoire naturelle des coquilles. [by] G. MONTAGU; [translated from English by] J. C. Chenu, 1846. xix, 364 p. + 12 pls.

Deuxieme Serie.

Tome I.
Transactions de la Societe Linneenne de Londres. Partie
Conchyliologique. [translated from English by] J. C. Chenu, 1845.
376 p. + 43 pls.

本シリーズは19世紀初頭におけるイギリスおよびアメリカの重要な貝類学関 係の文献をフランス語に翻訳して出版したものであり、後述する Martyn Universal Conchologist Thomas Say による American Conchology, Transactions of Linnean Society of London(ロ ンドン・リンネ学会報告)に掲載された軟体動物関 連論文などのフランス語訳などが含まれている。図版も正確に復刻されており、現在 、なかなか閲覧の困難なモノグラフ類をチェックするには非常に有益な二次資料とな っている。
 
Jean Charies CHENU (1808-1879) は、 フランスの博物学者で軍医であった。 Encyclopedie d'Histoire naturelle (31 vols., 1850-1861) の 共著者でもあり、貝類関係としては、Manuel de conchyliologie et de paleontologie conchyliologique (1859-1862) が その時代を代表する重 要な啓蒙書として知られるが、フォリオサイズの大型図版で美麗な種を網羅した図鑑 Illstrations Conchyliologiques (1852-54) は、84パー ト482図 版を出版 した段階で計画が頓挫してしまったシリーズで、分類学的に重要なパートを多く含ん でいながら、現在では最も入手の困難な図譜のひとつとなっている。
 
Edward DONOVAN (1768-1837) は イギリスを代表する重要な博物学者のひとりで、“The natural history of British Shells” をはじめ、鳥 類や昆虫、魚類などに関する、美麗な図版を伴う多くの博物学書を著している。
 
Thomas SAY (1787-1834) は、 アメリカの昆虫学者、 Philadelphia で 生まれた。本書に収録される "American Conchology" [1830-(1898)] は アメリカにおける「最 初の」貝類に関するモノグラフであり、7パート、68図 版からなる大著。多くの図版が Say の 婦人である Lucy が 描いていることでも著名。現在、完全なセットを入手することがき わめて困難とされる、この分野における稀覯書のひとつに数えられる。
 
William Elford LEACH (1790-1836) は、 イギリスの博物学者。軟体動物学が専門。本書に収録されている原著 の“Zoological Miscellany” は 軟体動物に限らず、動物学全般にわたる重要な論文である。

4. Index Molluscorum maris Japonici.
[by] Guilielmo DUNKER, 1882. Theodor Fischer, Cassellis Cattorum, 301 p. + 16 pls.

  本書は日本の貝類 学研究のパイオニアのひとりであるドイツ人科学者 Wilhelm Dunker に よる日本産の海産貝類の一大モノグラフであり 、これに先行する Mollusca Japonica (Dunker, 1861)  (本学無脊椎動物学研究室所蔵)と対をなすものである。Dunkerは 我々にとってなじみの深い 、レイシガイやサトウガイ、アコヤガイといった貝類を新種として記載したことで知 られており、本書においては、2,000種 の貝類が日本産として記録され、うち115種 が実にリアルな図版と共に記載されている。
 
DUNKER (1809-1885) は、1809221日 ドイツの Eschwege で 生まれた 。1830年 に専門的な鉱山学の試験 を受けて Gottingen 大 学に入学 した。彼の最初の論文は1837Braunschweig で 出版された。 18391021日、Cassel の 高等実業学校(工業大学 )に就職した。ここでは、国立図書館で外国の標本が容易に見られ、また、著名な研 究者と交流をおこない、1854Marburg の 鉱物学研究所の正教授兼 部長に任命された。1856年 頃か ら呼吸困難を感じ、採集旅行が出来なくなって来たので、軟体動物の研究に多くの時 を費やした。長崎出島の医官であった Nuhn 等 から送られた日本の貝類を報告した。1885年 肺炎で死去した。

5. Histoire naturelle generale et particuliere des mollusques.
[ed. by] M. Le Baron de FERUSSAC. Arthus Bertrand & J.-B. Bailiere, Paris.
containing:
Vol. 1:
a) Atlas. Histore naturelle des mollusques terrestres et fluviatiles, supplement part. [by] Paul G. DESHAYES, 1848. Arthus Bertrand & J.-B. Bailiere, Pari s. 95 p. + 98 pls. (col.) 
 本書は、
Ferrusac と、 彼の死後、P.G.Deshayesに 引き継がれて出版された陸・淡水産貝類に関する 膨大なモノグラフのうちの、Deshayesに よる補遺部の図版部のみが含まれている。本書全体は 247葉 ものフォリオサイズの手彩色石版刷りの大判図 版を含む4巻におよぶ大著で、最も美しく、最も稀少な貝類図譜のひとつに数えられ るものである。出版の過程が複雑であったため、完全なセットは世界でも数えるほど しか存在が知られていない。本コレクションに含まれる部分には、アフリカマイマイ 類を中心とした熱帯性大型種が多く描かれており、色彩豊かな眼を見張るほど美しい 図版となっている。

b) Premiere famille de l'ordre des tectibranches. [by] M. Sander RANG, 1828. De l'Imprimerie de Firmin Didot, Paris. 83 p. + 24 pls. + 96(a)-96(z), 96(
α)-96(λ) + 58 pls.
 本モノグラフは、多くの新種記載を伴うとともに、アメフラシ類分類の世界的 なレビューとして、現在でもこの分類群の重要な論文として挙げられるものであり、 詳細な記載と図版は未だ種分類に再検討が必要なこのグループの、今後の研究のため にも重要な資料であると考えられる。

Vol .2:
c) Atlas. Histoire naturelle des Cephalopodes. [by] M. Le Baron de FERUS SAC,
  本書は1835
年 までに記載された頭足類についての総 説であり、頭足類の系統分類学研究者にとっては、研究上必要不可欠の本である。本 書自体においても、多くの新種や新タクサが記載されていることはもとより、本書の アトラスには頭足類研究が始まってからその時点までに記載されてきた種で、図の伴 うものについては、その図を美しい多色刷りの版画で実に忠実に複写し、転載してあ る。おかげで本書一冊で多くの古典に散在する頭足類の種の原記載を一度に総観でき るわけである。テキストにおいても、それぞれの記載を転載していることはもとより 、それについて、多くの検討を加えて議論がおこなわれている。コレクションに収蔵 されたものは、テキストとアトラスの2巻からなるうちのアトラスの部分のみであっ た。テキスト部分は別途購入され、無脊椎動物学研究室に収蔵されている。

6. British conchology, or an account of the mollusca which now inhabit isles an d the surrounding seas.
[by] John Gwyn JEFFREYS, 1862-1869. John Van Voorst, London. 5 vols.

John Gwyn JEFFREYS (1809-85)
は 東大西洋、地中海の貝類研究の先駆者で、イギリス周辺の“完璧” な貝類標本コレクションを所有していたことでも著名な研究者であった。そのコレク ションに基づいて作成されたのが本書である。こ の時代の通例的に、本書にも図版の彩色が施された 豪華版と、無彩色の廉価版などいくつかのエディションがあるが、このセットは後者 の無彩色図版のもの。

7. The universal conchologist : exhibiting the figure of every known shell accu rately drawn and painted after nature : a new systematic arrangement.
[by] Thomas MARTYN, 1789. Private Publishing, London. 39 p. + 80 pls. ( col.)


Thomas MARTYN (?-1816?)の略 歴は不明。1764年以降のキャプ テン・クックなどによる南洋航海で得られた貝類標本を購入し、彼の育成した“Academy”のアーティストの手による 160 葉の手彩色銅版画として収録 。この時代における珍奇種、新種の記載を多く含むことはもちろん、貝類の表と裏の 両面を描きこんだ丁寧な構図、色彩などとあわせて、カリグラフによる扉、画面を囲 む飾り罫、静物画のように白い画面に落とされた貝殻の影を描き込むなど、極めて優 雅な図書となっている。

8. Conchologia systematica, or complete system of conchology.
[by] Lovell REEVE, 1841. Longman, Brown, Green and Longmans, London. 2 v ols.


Lovell REEVE (1814-1865)には 、本書のほか に、貝類図譜中、最良の のの一つといわれている Conchologia Iconica. [by A. L. Reeve and G. B. Sowerby. 20 vols. London (1843-1878)] の大著がある。
日本関係としては、英国の軍艦
H.M.S. Samarangによる、明治以前の日本近海の調査報告の軟体動物の部をA. Adamsと共に発表している。

9. The genera of recent and fossil shells for the use of students in conchology and geology.
[commenced by] James SOWERBY and continued by George Brettingham SOWERBY, 1820-1825. with original plates by James Sowerby and J. D. C. Sowerby. John Van Voorst, London, 2 vols. (279 pls.)

イ ギリスの自然史研究における、博物画家とし ても著名な Sowerby 一族による著作のひとつ。 James Sowerby から George B. Sowerby III までの4代にわたり、鉱物学、植物学、動物学に及ぶ啓蒙書、図鑑 類を自ら作画を含めて出版し、イギリスにおける自然史研究の発展に大きく貢献した 。貝類関係では、特に、大著 Thesaurus Conchyliorum (1847-1887, 5 vols. 44 parts) が多く尾の新種記載を含んでおり、現在でも最重要 古典文献のひとつとなっている。本書は Lamarck の分 類体系に準じた貝類分類の教科書であり、美麗な図版を伴う属 単位での44パー トが出版されており、James SOWERBY (1757-1822)
(父)、
James de Carls SOWERBY (1787-1871)(長男)、 George Brettingham SOWERBY I (1788-1854)(次男)の三人の協力により出版された。James Sowerbyは、1-17図版 (1820-1822) を 出版し亡くなったので、息子が引き継いだが未完のうちに出版が中止されている。   

(revised on Sept. 2005)

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