海洋大生に薦める私からの1冊 〜心の海に漕ぎ出そう   
  『話のさかな』 高成田享と三陸おさかな探検隊著


松山 優治 (東京海洋大学長)



  私の周りには、魚の本は数多くある。時々、手にするが、最後まで到達するのは、なかなか難しい。 魚については素人(私の専門は海洋物理学)であることも原因のひとつである。 「魚の本」には、図鑑に近いものが数多くあるから、拾い読みするのも事実である。 「魚の本」の著者が「魚お宅」であって、読者の立場をあまり考慮せず、自分が楽しんで書いていると感じられる本が多い。 素人の私が、一冊を最後まで読みきれない主たる理由が、ここにあると納得している。

   本書は宮城県の3つの朝日新聞支局の新聞記者たちが、「三陸さかな歳時記」として、地方版に書いたコラムをまとめたものである。 石巻魚市場に勤める友人に勧められ、いつものように、途中で終わるだろうと思いつつ読んでみたら、実に面白く、興味深く最後まで読んだ。 素人である新聞記者が読者に読んでもらうコラムを書くために勉強した過程が実に分かり易く、読んでいると、その姿が目に浮かんでくる。

  本書は四季の魚を2ページにわたってイラストと共に書いている。その魚の呼び名、由来、分布、特徴、漁法を紹介し、最後には料理法などが記されている。前半は図鑑に書かれている内容を著者らが上手に抜き出して読者が興味をひくようまとめている。さらにそれを肉付けするため、現場で取材している。新聞記者らしく取材した内容や取材相手である漁師や漁業関係者、料理人を詳しく紹介している。魚の旨さを引き出す料理法も面白いが、酒の好きな著者が「さかな」として、「魚の料理」にこだわる様子が伺え、微笑ましい。

  魚の話と料理(さかな)の話を巧みに組み合わせて「話のさかな」にした75回のコラムで、ついついと次のページ、次の魚の話に引き込まれる。 宮城県と福島県の新聞購読者にしか目に触れなかった新聞のコラムを一冊の本にまとめて、全国の「さかなファン」が読めるようになったのは、実にうれしいことである。

  本書の後半部には、著者の一人である高成田享氏と魚食文化論者の小泉武夫氏、石巻魚市場の須能邦雄氏との対談「おさかな文化が日本を救う」が載っている。 高成田氏の司会で両氏が日本人と魚文化について論じ、魚食普及への強い思いが伝わってくる。幅広い食文化への造詣の深さを感じる小泉氏の話と、長年の様々な経験を通して水産業と関わってきた須能氏の話は、特徴があって非常にひかれるものがある。

  本書はベテラン新聞記者らしい取材事実を巧みに組み立てて、読者を楽しませるという配慮のある書である。久しぶりに読後に満足感を味わうことができた。



『話のさかな』は品川図書館にあります


『話のさかな』 高成田享と三陸おさかな探検隊著 荒蝦夷発行 請求記号 : 664.6/Ta46

図書館ホーム ページ



東京海洋大学附属図書館作成 2010.06.03